●新東京防災 齋藤恭志社長
「敬天利他」の精神で防災設備業界の常識に挑戦
1994年の設立以来、消防用設備の設計・施工・保守・管理の分野で独特の立ち位置を維持しつつ成長を続ける新東京防災。
その理念をベースにした社員一丸経営は、齋藤恭志社長のリーダーシップのもと展開されてきた。
「社員には、常に〝自分のまわりの人は笑顔か〟〝もう一度会いたい人間になれているか〟を自分自身に問いかけてみるように指導しています。これらが実践できれば、仕事も人生もうまくいきます」
というのは、創業以来、スプリンクラーや消火栓、火災報知器、避難設備等の各種消防用設備の設計・施工・保守・管理を手がけてきた新東京防災の齋藤恭志社長。
消防用設備の業界は、消防法や各種法令の枠内にあり、使用する設備や点検の仕様が厳しく規定されている。それだけに、他社との差別化がしにくいという面があるのだという。齋藤社長が続ける。
「顧客との良好な人間関係を築き、選ばれ続けることが大切です」
齋藤恭志社長
株式会社新東京防災
業種:消防用設備の設計・施工・保守・管理
設立:1994年4月
所在地:東京都目黒区青葉台4-7-7
売上高:15億円
社員数:55名
URL:https://www.st-bousai.com/
経営理念は「敬天利他」。西郷隆盛公の遺訓「敬天愛人」と仏教の教え「自利利他」を合わせたもので、〝天を敬いながら人を幸せにする〟との思いを社員全員が持って仕事に臨めば、おのずと道が開けてくるとの思いから齋藤社長が考えた造語である。
仕事ぶりにも、この理念が生きている。「他社がやりたがらない仕事」を進んで受注する風土もそうだ。
齋藤社長とは古くからの友人で、現在は経営管理室の室長をつとめる川原茂執行役員は言う。
「昔から齋藤社長が旗をふると、なぜか人が集まってくるんです。当社においても、高い技術を持った人材が集まってきて、会社の屋台骨を支えています。そして、〝困った、何とかして……〟と助けを求める声に反応して、難しい仕事を請け負う。その繰り返しで、自然と顧客との信頼関係が築かれてきた側面があると思います」
現在、社員は55名。原則、現場を担当する社員は、消防設備士の資格を持っている。新入社員は定期的な研修を経て、入社後1~2年で資格を取得。さらに現場でベテラン社員にもまれながら技術力を向上させていく。こうして出来上がった技術者集団が、あえて〝困難な〟案件に挑戦する社風を支えている。再び齋藤社長の話。
「新築の案件は、からっぽの箱に設計図にもとづいた設備を設置するようなもので比較的やさしいのですが、難しいのはリニューアル案件です。老朽化した消防設備を現在の法令に合わせて改修しなければならないので、マニュアル通りというわけにはいきません」
マンションや公営施設などは、防災設備の機能を一分一秒でも途切らせるわけにはいかない。そこには「人工心肺を使いながら心臓移植を行う」(齋藤社長)ような繊細さが求められる。さらに建物の使用状況に合わせて綿密な計画をたて工事を進めていく緻密さも求められるのだが、こうした仕事には、技術力の裏付けと、多くの場合、ベテラン社員たちのノウハウが必要になるのだという。
「壁をはがしてみると、設計図とは違う仕様で取り付けられていたりといったようなことはしょっちゅうです。そうした仕様を初めて見る若い人には手が出ませんよね」(齋藤社長)
そこで真価を発揮するのが、ベテラン社員たちである。
新東京防災には、60歳以上の社員が7名在籍している。60歳を過ぎた社員も、体力と気力にあわせて、柔軟な勤務条件のもとで働き続けてもらう体制をつくってきた。こうしたベテラン社員たちの中には、20年30年前の設備を工事・点検した経験を持つ人もいる。そのノウハウが困難な状況を克服する突破口となるのである。
「彼らのノウハウは当社の宝です」と齋藤社長は言う。
このような案件には、同業他社は手を出しづらい。そうなれば、自然と口コミが広がり、古い建物のリニューアル案件が新東京防災に集まることとなる。それどころか、他社から「困ったから手を貸してほしい」と支援要請が来たことも一度や二度ではないという。
困難な仕事をあえて請け負う
女性消防整備士も活躍
経営者としての齋藤社長は「常識を疑う」ことを常としている。たとえば、会社を立ち上げた際に、まだ珍しかった「工事と点検の両方をワンストップで請け負う会社」として業務をスタートしたのもそうだ。
「当時は工事と点検は別の領域で、〝双方侵食すべからず〟の雰囲気がありました。私は、少し勉強すれば両方を事業化することは可能だし、その方が顧客のためにもなる。防災会社の本来あるべき姿だと考えたのです」(齋藤社長)
結果として「腰を据えて顧客の悩みごとに対応できる」という同社の強みにつながった。
女性消防設備士が複数名在籍しているのも常識を外れた施策のひとつ。7、8年前から齋藤社長は「女性部隊」をつくろうと、意図的に女性の採用を推進してきた。従来、消防設備士といえば男性の仕事というイメージがあったが、齋藤社長は現場で業務を行うなかで「女性でも十分にこなせるし、場合によってはむしろ女性の方が適任なのでは」と感じるようになる。
マンションなどでの一人暮らしの女性の部屋や更衣室などの女性だけが利用するフロアを点検する場合、「女性の点検員を」というニーズは大きい。
川原執行役員は言う。
「点検現場では女性らしいきめ細やかなサービスが受けて評判も上々。顧客アンケートでは、〝次回も同じ方(女性)でお願いします〟という声が上がるほどです」
川原茂執行役員
さらに齋藤社長は、社内の管理体制の整備が同社の成長を担保してきたと強調する。
「仕事量や従業員が増えてくると、労働基準法や働き方改革などの課題への対応が必要となってきます。そうしたものをしっかりしようと川原を室長にして経営管理室を立ち上げました。さらに財務管理の面でも、本間会計事務所の本間貴久先生の指導を仰ぎながら、月次での業績管理を徹底しています」
新東京防災では部門別の限界利益額を常に社員と共有し、直面するひとつひとつの仕事を、全員が仕入れや外注費などを考えながら進めることで、1円でも多くの利益を残す無駄のない経営を徹底しているという。
「社員一人一人が経営者のような気持ちで行動する体制の構築が、組織を強く、みんなを幸せにします。最初の頃はそのことに気づきませんでしたが、本間先生に教えていただいた後はそれを実践し、一気に会社が引き締まりました」
「敬天利他」をベースに、人の成長を支援しながら、常に新しい手法を模索する……これからも齋藤社長の経営に要注目である。
(取材協力・税理士法人本間会計事務所/本誌・高根文隆)
「防災道」を極める
税理士法人本間会計事務所
北海道札幌市東区北23条東9丁目4番26号
税理士 本間貴久
齋藤社長には、経営者としての方向性が明確に定まっているという印象を持っています。その方向性を幹部や従業員の方々にしっかりと伝える体制を構築し、一体感のある会社を作られてきました。また、決して売り上げ至上主義に陥らず、“敬天利他”という人としての生き方を強調しつつ信念を持って経営をされています。齋藤社長は、最終的に“防災”のイメージを変えようとされているのだと思います。日頃から自社の業務を“防災道”と表現され、防災業務を極めるべき“道”ととらえる考え方を示されていることからも、そのことが分かります。
また、新しいことを積極的に受け入れる柔軟性も特徴です。本文にもある通り、点検業務と工事業務の両立、女性部隊の創設がそうです。あるいは「限界利益」を経営の軸に据える変動損益計算書の考え方も、私と川原室長の助言に耳を傾けられ、即座に取り入れられました。警報部門と消火部門、点検部門と3部門に分けて収益を管理され、毎月の経営会議ではそれぞれの部門長が細かな点まで確認しつつ、全員で打ち手を話し合われています。
異端をいとわず、“防災”の新たな形を追求されている齋藤社長の今後に期待しています。